「神のかたち」に創造された私たち——「雅歌」に記された愛の目覚め

ゴールデン・ウィークの真っただ中ですが、いかにお過ごしでしょう。小生は、いつもと同じように教会に来て、いろいろたまっていた仕事をしております。休みは皆さんと違ったタイミングで取っているだけですが……

先週、友人のお勧めで、感動的な本を読みました。角田光代さんの「タラント」という長編小説です。本の帯に「あきらめた人生のその先へ……小さな手にも使命(タラント)が灯る慟哭の長編小説」と書いてありました。とっても動きの少ない物語なのですが、終わりにかけて、感動の涙が止まらないほどでした。

タラントとはもちろんマタイの福音書25章で、神が一人一人に与えた賜物を意味します。この小説の作者はクリスチャンではありませんが、この聖書的な背景をよく知ってこの本のタイトルに聖書の言葉をつけています。

読んでしばらくして示されたのは、聖書の雅歌に三度登場する以下のことばです。(2:7、3:5、8:4)

揺り起こしたり、かき立てたりしないでください。
 愛がそうしたい(目覚めたい)と思うときまでは

私たちはしばしば「使命」ということばを、何か大上段に構えた、決死の覚悟で取り組むべき「責任」かのように理解しますが、この作者は、熱い正義感のような感覚に距離を置き、自分の内側から沸き起こる「これをしてみたい……」という自然な感覚をとっても大切にしています。

そして、「これをしてみたい……」という動機が働くところに、同時に、そこにはその人に固有に与えられた賜物または能力のようなものがあります。

日本語の諺で言うと、「好きこそものの上手なれ」ということに結び付きます。

上記の雅歌のことばは、神への愛、人への愛、仕事への愛……すべてに適用できることばです。どんなに周りに人が必死に、教えようとしても、本人自身が、愛に目覚めなければ「やる気」も使命感も生まれません。

そこに「脅し」のような圧力をかけて、他人の心を動かそうとしても、物事は期待するようには進みません。

最近、ウクライナ軍が圧倒的な戦力を誇るロシア軍と互角に戦っていることに世界の注目が集まっています。欧米から多くの武器が渡っていることが最大の原因とも言われますが、その武器を操作しているのは、みなウクライナ人です。

実はNATO軍の指導者が、2014年のロシアのクリミヤ侵攻以降に、ウクライナ軍の訓練に携わってきたとのことです。そこで大切にされている原則は、すべての兵士を上からの命令で一律に動かすのではなく、現場の意思決定を尊重し、命令系統で下部に位置する人々に、自分たちで現場の作戦を考えさせそれを実行する自由を与えながら、組織のとしての一致を保つという動き方だそうです。

欧米の経営学では常識とされている原則ですが、長らく独裁政権下にあった人々には適用が困難な原則のようです。ウクライナ軍は、ロシア軍の攻撃に臨機応変の対応をして、その侵攻を食い止めています。

これは新型コロナ感染対策における中国の姿と他の先進諸国の対応の違いにも現れています。ゼロコロナをかかげての上海市のロックダウンのマイナスの影響はますます大きくなってくることでしょう。これも、最初にコロナ感染を暴力的とも言える手段で徹底的に抑えた成功体験?が、その政策を堅持させているのでしょう。

中国にしても、ロシアにしても多くの少数民族を国内に抱えていますので、中央集権でないと国がまとまらないとも言われますが、その中央集権の独裁政権が今、ますます、世界の問題を大きくする原因になっています。

しかし、聖書の世界は、本来、一人一人すべての人間が、「神のかたち」に創造され、一人一人に固有の感覚や問題意識や気づきを与えているということから始まっています。

イエス・キリストが始めた愛の共同体は、まさに草の根レベルで、一人一人の心を動かし、世界を変え続けています。

それと、最近、ロシアの歴史を調べて分かった驚くべきことがあります。ソ連を29年間支配したスターリンはグルジア(ジョージア)の出身であることは良く知られています。その後継者のフルシチョフは11年間最高権力者の地位にありましたが、彼は少年期からウクライナで暮らし、ウクライナの共産党をまとめることから中央に登りました。その後継者ブレジネフは18年間最高権力者の地位にありましたが、彼はウクライナ出身のロシア人で、終生ウクライナなまりのロシア語を話していたと言われます。すべて今、ロシアから徹底的に弾圧されている国々の出身者がソ連の中枢にいた。その感覚からしたら、プーチン氏がウクライナをロシアの一部と呼びたい気持ちも分かります。

しかし、フルシチョフもブレジネフも、ウクライナ人から決して尊敬されてはいなかったはずです。それが中央集権体制の矛盾です。

一人一人の自主性や主体性を生かす草の根レベルの組織形成にはとっても時間がかかります。しかし、それこそイエス・キリストが始めた神の国の偉大さですそれは、同時に、ロシアの文豪ドストエフスキーがカラマーゾクフの兄弟で大切にしていた原則でもあります。