最終解決を目指す恐怖〜詩篇94篇、ローマ12章

ロシアのプーチン政権は、ウクライナ問題を一挙に解決しようとして、ウクライナばかりか世界中の人々に恐怖を与えています。

3月20日にウクライナのゼレンスキー大統領が、イスラエル国会でビデオによる演説をしました。日本では、ミサイル防衛システムの供与を求めたとか、ロシアの暴挙をナチスのユダヤ人虐殺にたとえたと、単純化して報道されていますが、もしできれば、全文英語ではありますが、彼の をお読みください。

ゼレンスキーさんはウクライナとユダヤ人との緊密なつながりから説き始めます(ただ、彼は自分がユダヤ人のルーツを持つということをここでは敢えて語ってはいません)。イスラエル国民から愛されているイスラエルの首相にゴルダ・メイアさんがいます。彼女は1969年から1974年にイスラエルの政治を導きました。彼女は、キエフで生まれ育って米国に亡命し、イスラエルの建国の際に移住してきた方です。心から平和を望む、戦争が大嫌いな女性としても有名でしたが、彼女の次のようなことばをゼレンスキーさんは引用します

私たちは生き続けることを願っている。しかし、隣人たちは私たちの死を見たいと願っている。これは妥協の余地を残さない問いかけになってしまう

それは、イスラエルの建国に際し、周囲のアラブ諸国からの一斉の攻撃にさらされたことを顧みる発言です。

そして、今、プーチン大統領は、ウクライナ問題の速やかな解決のために軍事侵攻を始めました。ただ、その2月24日は102年前にドイツでヒットラーがナチス党を創立した日でもあります。ナチスは、「ユダヤ人問題の最終解決」を党是に掲げていました。英語では The Final Solution ということばは、ナチス用語としてほとんど使われることはありません。

ゼレンスキー大統領は、ロシアの宣伝のことばに、「ウクライナ問題の最終解決を願って軍事侵攻をせざるを得なかった……」という種類のことばが多いことを思い起させています。

残念ながら、歴史上、問題のすみやかな解決を熱く願った人こそが、もっとも恐ろしい別の問題を引き起こしてきました。

詩篇には神のさばきを求める祈りが繰り返されます。しかし、それは、人間的な力による解決との対比で語られるものでもあります。

詩篇94篇には次のような恐ろしい祈りが記されます

復讐の神 主よ。
復讐の神よ 光を放ってください。
地をさばく方よ 立ち上がってください。
高ぶる者に報復してください。

主よ いつまでですか 悪しき者が
いつまでですか 悪しき者が勝ち誇るのは
彼らは放言し 横柄に語り
不法を行う者はみな自慢します。
……
彼らは やもめや寄留者を殺し
みなしごたちを苦しめています。

このような神の沈黙に抗議するような祈りが続いた後、この最後では次のような確信が歌われます

主は彼らの不義をその身に返し
彼ら自身の悪によって 彼らを滅ぼされます
私たちの神 主が 彼らを滅ぼされます

この神のさばきは、しばしば、悪人たちが 自分自身の蒔いた種によって滅びを刈り取るのを待つということで表されます。神のさばきは現在、天から火を降らすよりも、悪人の自滅を早めるということに現わされます。

それは、多くの人々にとって、あまりにも中途半端な、不条理な状態が続くことを意味します。神の沈黙に耐えがたい気持ちにもなります。

「主よ、どうしてですか……」と問いたくなるというのが、残念ながら、歴史の常です。しかし、長い歴史で見ると、確かに、傲慢な政権は、自滅してきています。また、私たちの周りの傲慢な人も自滅しています。

しかも、神はそこで不思議なことを命じられます。

悪人たちに対する神のさばきが必ず実現することを信じた結果として、次のように命じられています

もしあなたの敵が飢えていたなら食べさせ
渇いていたなら飲ませよ。
なぜなら、こうしてあなたは彼の頭上に
燃える炭火を積むことになるからだ
ローマ12:20

今、ウクライナの人々は捕虜となったロシア人に優しく接することによって、ロシア人が内側から政権を変えてくれることを必死に願っています。また、SNSを利用して、ロシア人の良心に訴えようとしています。

今、ハードな戦いの裏側で、そのようなソフトな戦いが進められています。

ソフトな戦い方には、時間がかかります。しかし、これこそが敵を慌てさせ、内側からの政権の変化を起こす、有効な道と言えましょう。