讃美歌「飼葉桶の傍らに」

クリスマスはこの世的には「いのちの誕生」を喜ぶ機会です。

Last Christmasという驚くほど切ない失恋の歌が、不思議なほどに明るいメロディーで歌われるのを聞きながら、失敗しても何度もやり直す勇気が歌われているような気がしました。スポーツクラブでの踊りにぴったりの曲です(笑い)。

この歌は37年前の1984年に英国のポップデュオ「Wham!」がリリースした曲です。以下で英語と日本語の対訳をご覧いただきながらお聞きいただけます。

新約聖書の最初が一見、無味乾燥にも思えるイスラエルの系図から始まっています。しかし一つひとつの名を丁寧に見ると、そこにはアブラハムから始まる神の民の歴史、ダビデから始まる神の王国が、神によって守られ、イエス・キリストの誕生から新しい神の民と神の王国の歴史が始められるという驚くべき希望が描かれています。

キリストのうちにある者は、「死からいのちに」、「のろい」から「祝福」へと移されています。「のろい」とは労苦が無駄になり、自分の身を守ることばかりに汲々として不安に苛まれ、愛が冷めてゆく状況です。

それに対し、「祝福」とは、キリストにある夢と希望に満たされ、「私の愛する兄弟たちよ。堅く立って、動かされることなく、いつも主のわざに励みなさい。あなたがたは、自分たちの労苦が、主にあって無駄でないことを知っているのですから」(Ⅰコリント15:58) と断言できる世界です。それこそが、神ののろいと祝福が描かれている申命記27–30章の結論として語るべきことばでした。

やはり、このクリスマスの時期は何といっても以下のドイツの古典的な讃美歌「飼い葉おけ(まぶね)のかたわらに」が一番しっくりきます。

ドイツの人口が半減したとも言われる悲惨な三十年戦争の直後の1653年にドイツ最高の詩人パウル・ゲルハルドが記したものです。

以下で歌われる曲は、1736年に J.S. Bach が作曲したものです。バッハは1734年のクリスマスオラトリオでは古いメロディーを入れていますが、この詩に合わせた曲をどうしても書きたくなったのかもしれません。とにかく、このメロディーと原詩は本当にぴったりと合います。

これほど美しくクリスマスの意味を歌った曲を僕は知りません。ヒットラーのもとで殉教の死を遂げた神学者ボンヘッファーは、牢獄の中でこの賛美歌の歌詞を思い巡らしながら、勇気を受けたという趣旨のことを記しています。

以下は、歌えるようにした私訳です。以下のサイトで、ドイツのマインツ大聖堂での少女合唱団の曲をお聞きいただけます

また、以下でアカペラの女声合唱も美しいです

「飼い葉おけ(まぶね)のかたわらに」
Ich steh an deiner Krippen hier
Paul Gerhardt 1653年(曲:讃美歌107番参照)

  1. まぶねのかたえに われは来たり
    いのちの主イエスよ きみを想う
    受け入れたまえや わがこころすべて
    きみが賜物なり
  2. この世にわれまだ 生まれぬ先
    きみはわれ愛し 人となりぬ
    いやしき姿で 罪人きよむる
    くしきみこころなり
  3. 暗闇包めど 望み失せじ
    光 創りし主 われに住めば
    いのちの喜び 造りだす光
    うちに満ちあふれぬ
  4. うるわしき姿 仰ぎたくも
    この目には見えぬ きみが栄え
    ちいさきこころに 見させたまえや
    はかり知れぬ恵み
  5. 深き悲しみに 沈みしとき
    慰めに満てる 御声聞こゆ
    「われは汝が友 汝が罪すべてを
    われはあがなえり」と
  6. 御救いの星よ いといたわし
    干し草とわらに 追いやられぬ
    黄金のゆりかご 絹の産着こそ
    きみにふさわしきを
  7. 干し草を捨てよ わら取り去れ
    きみがため臥所 われは作らん
    すみれ敷き詰め きみが上には
    かおりよき花びら
  8. おのが喜びを 望みまさず
    われらが幸い きみは求む
    われらに代わりて きみは苦しみ
    恥を忍びましぬ
  9. 主よ わが願いを 聞きたまえや
    貧しきこの身に 宿りたまい
    きみがまぶねとし 生かしたまえや
    わが主 わが喜び