連日、ガザ地区へのイスラエルによる激しい攻撃が報じられています。2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターが崩壊した悲劇は、米国政府をテロとの戦争に駆り立て、アフガニスタン、イラクへの泥沼の戦いへと進みました。イスラエルにとって今回のハマスによるテロは、そのときのアメリカ国民が味わったのと同じような、またそれ以上の不安と怒りを引き起こしているのかもしれません。
米国もまとまりのない移民の国ですが、イスラエルも本当に不思議な移民国家です。イスラエルが、ユダヤ教の教えでまとまっている国だと思ったら大間違いです。そこには多くの無神論者や世俗的な見せかけのユダヤ教徒ばかりか、多くのアラブ人も、異教徒の亡命者も数多く住んでいます。しかし、イスラエルはヘブライ語を公用語としていることによって、ある種のまとまりができているのかもしれません。
現在のイスラエルの地へのユダヤ人の移住が始まったのは今から150年前の1880年代です。その後、世界のありとあらゆる地域から、ユダヤ人がかの地に移住して来ます。そこで彼らは将来的な建国のために不思議な実験を始めます。それは、ユダヤ教の礼拝でしか使われていなかったヘブライ語を、日常言語として再生させるという試みです。世界各地のユダヤ人は、ロシアに住めばロシア語を、ドイツに住めばドイツ語を日常生活で使っていました。ヘブライ語は礼拝と祈りの中でしか使われていませんでした。イスラエルに最初に移住したエルエゼル・ベン・イェフダーを始めとする言語学者が、二千年前には存在しなかったあらゆる事物を表す言語を、擬音語のような響きも取り入れながら作って行きました。そして最初の現代ヘブライ語辞典が1908年に刊行されます。
しかし、移住してきたユダヤ人は、とっても世俗的な見せかけだけのユダヤ教徒も多く、それまで使ってきた日常語や、その国々の文化に影響された価値観や生活習慣があります。それらのまったく異なった価値観を持つ人々が、ユダヤ人的背景を持つというだけで一致できるわけがありません。ですから、イスラエルの政治はとっても不安定になります。ありとあらゆる考え方の人が国民の中にいるからです。そして、傾向的には、パレスチナ人との共存を大切にする勢力よりも、軍事力に頼る勢力が力を持つようになってきています。
その背景に、イスラエルの経済成長があります。今や、イスラエルの一人当たりのGDPは、何と日本の1.6倍にまでなっています。ひとりあたりGDPではイスラエルは世界で14位、日本は32位、ドイツは20位です人口が少ないので、GDPの規模では日本の12%ですが、ノルウェーと同等の国内総生産力に達しています。
ただ、そのような中で、力によってパレスチナ人を抑えようとする政府の政策に真っ向から反対する勢力も数多く生まれています。その一つが、ガディ・グヴァルヤフ氏が始めたタグ・メイア(光のタグ)という運動です。これはイスラエルの社会と政界に広がる五十の組織・団体の連合です。彼らは、ユダヤ人もアラブ系イスラエル国民も、パレスチナ人も、現在のヨルダン川西岸に住むすべての民族が、互いの間に平和と寛容と共感を生むための運動を広げています。彼らは詩篇34篇14節を自分たちの運動の合言葉にしています。そこには次のように記されています
悪を離れ、善を行い
平和を求め、追い続けよ(私訳)
イスラエル国内にも、今回の軍事作戦に反対する勢力がいます。ただそれでも、イスラエルという国を消すことを至上命題とするテロ組織ハマスとの対話の余地は少ないと思います。どのような解決があるかは本当に分かりません。しかし、多くのパレスチナ難民のこの悲惨に心を痛めてる多くのイスラエル国民もいるということを覚え、この地の平和のために祈って行きたいと思います。