ノーベル賞と移民の貢献〜Ⅱサムエル15:13–23

昨日、ノーベル医学、生理学症の受賞者としてハンガリー生まれのカタリーン・カリコ氏の名と働きが紹介されました。新型コロナ・ワクチンに関しての議論は別として、日本で見過ごされがちのことをご紹介させていただきます。

以前、ドイツのメルケル前首相は、新型コロナワクチンはドイツで開発されたのだと盛んに言っておられました。今回のカリコ氏の受賞で、その背景が良くわかりました。

カタリーン・カリコ氏は、1955年にハンガリーで生まれ、研究者として生きてきましたが、30歳の時、ハンガリーの研究機関が財政難で閉鎖され、必死の思いで米国にたどり着きます。ペンシルバニア大学で研究者としての立場が与えられたと思ったら、1995年には、研究者として成果を上げていないということで降格され、ぎりぎりの状況で研究を続けます。2011年にドイツのベンチャー企業のビオンテックから招かれ、その働きが評価され、2013年からドイツのビオンテックの副社長とされます。そして、今回の新型コロナワクチンはドイツのビオンテックと米国のファイザー社との共同開発ということになっていますが、ビオンテックが感染爆発の10年前にカリコ氏の研究を評価し、立場を与えていなかったら、このような結果は生まれていなかったことは明らかです。

しかも興味深いのは、ビオンテックというドイツの会社は、2008年にトルコ移民のウール・シャヒンとその同じくトルコ移民の妻によって設立された会社です。カリコ氏がビオンテックに移籍するとき、会社のホームページも満足にできていないような会社に移籍するのかと、馬鹿にされたそうです。

このビオンテックの設立者シャヒン氏は、1965年にトルコで生まれ、4歳のときにドイツに移民した方です。その頃のドイツでは、トルコ移民の方々が本当に差別されていました。彼はケルン大学医学部に進みますが、それ自体が、彼の仲間のトルコ移民の間では注目されるほど珍しい事だったようです。

つまり、今回のワクチンの開発には、ドイツに住むトルコ移民の起業家と米国の大学で立場を失ったハンガリー移民の研究者の協力の成果なのです。ちなみに、ビオンテック創立者のシャヒン氏は、ワクチン接種の強制化には強く反対し、それぞれの自主性を大切にすべきと主張しておられるとのことです。

最近の米国経済をリードする企業の創業者も移民の方々が本当に多くおられます。日本でも移民の方々の創造性に期待する土壌が生まれることを期待したいです。

聖書の世界では、イスラエルの王ダビデは、異国人を豊かに用いることで国を安定させることができました。Ⅱサムエル記15章13–23節には ダビデが息子のアブサロムから追われて、エルサレムから逃れるときの話が記されています。その際、次のように記されています

18 王のすべての家来は王の傍らを進み、すべてのクレタ人と、すべてのペレテ人、そしてガテから王についてきた六百人のガテ人がみな、王の前を進んだ。

ここに登場するダビデの近衛兵はみな外国人でした。ダビデはその際、リーダーのイタイに、「あなたは異国人で……亡命者なのだから……われわれといっしょにさまよわせるのは忍びない」とまで言っています(19、20節)。それに対して、イタイはそれまでのダビデからの恩義に報いるかのように、主と主が立てたダビデに死ぬまで従いたいと願いました。

イエス時代のユダヤ人は、外国人を軽蔑していた面がありますが、ダビデの時代はそうではなかったようです。次々と異国人が、主の民の交わりに受け入れられ、ダビデが同胞から裏切られた時、最も信頼できる護衛兵としてなったのです。

ドイツもアメリカも移民の受け入れによって大変な文化的摩擦を生み、苦労してきています。しかし、その移民の方々によって、産業や経済の活性化が行われているということに注目したいと思います。