米国の一人勝ち?——誠実さへの渇き

先日、国際情勢に詳しい大学時代の友人と話していたところ、「今回のロシアのウクライナ侵攻によって、一番、得をしているのは米国ではないか……」と言われ、「はっ」としました。表面的には、米国の株式市場は年初来高値から15%も下落しています。それはインフレ懸念と昨年まで上昇を続けてきたことの反動でしょう。でも、中長期的には今回のロシアの暴挙によって、米国が利益を得ていることは間違いないように思えます。

もちろん、だからと言って、今回のロシアの暴挙の背後に、アメリカの陰謀がある……と言っているわけではありません。

いろんな見方があるのしても、根本において、ロシアのプーチン大統領が行っているウクライナへの無差別攻撃は、正当化できるいかなる理由もありません。多くの識者が言うように、これはプーチン政権の計算間違いによる、自滅への歩みと言えましょう。それによってウクライナの驚くべき多くの民間人が想像もできない苦難の中にあります。これに対して、私たちが結束して援助の手を差し伸べるとともに、ロシアに政治的な圧力を加えることは正しいことと言えます。

ただ、それにしても、今回の悲劇は、米国にとっての利益になることがあまりにも多くあります。ヨーロッパ諸国も日本も、そろって軍事費を増大する方針を決めています。その武器のほとんどは米国から購入されることでしょう。

ウクライナの穀物輸出に支障が出ていますが、米国は世界で断トツの一番の穀物輸出国です。エネルギー価格が急上昇していますが、それすると米国のシェールオイルの採掘が採算が合うようになります。そしてNATOが米国主導のもとに協調できるようになっています。一方、その陰でドイツの影響力が驚くほど下がりました。

日本以外のアジア諸国がアメリカによるロシア制裁の呼びかけに冷淡な反応をするのは、このような米国の一人勝ちの状況を見ているからでしょう。

私たち一人一人は、正義とか誠実さを大切にして生きて行きたいと思いますが、組織や国という単位になると、驚くほど自己中心的な動きが正当化されます。一人ひとりの人間には、良心の歯止めがかかりますが、それが集団や国家になると、組織の論理や国益の名のもとに、恥ずべき行為が正当化されることがあります。かつての英国によるアヘン戦争がその良い例でしょう。

民主主義の意味は、そのような国家の暴走を、一人一人の良心の働きで抑えることにあります。

以前の箴言19:22の新改訳は「人の望むものは、人の変わらぬ愛(人の誠実さ)である」と訳されていました。2017年訳でこれが意味不明な訳になったことが何よりも悔やまれます。英語で多く用いられているESV訳でも「What is desired in a man is steadfast love」と訳されています。

これと並んでミカ6章8節も覚えたいみことばです

主はあなたに告げられた。
人よ、何が良いことなのか。
主 (ヤハウェ) があなたに何を求めておられるかを。
それは、ただ公正を行い、誠実を愛し、
へりくだって、あなたの神とともに歩むことではないか

人はみな、心の奥底で、誠実さ、真実な愛(ヘセド)に憧れています。今回のウクライナ危機で、世界中の一人一人の誠実さが問われています。

国際政治の利害関係を冷徹に見ることは大切ですが、同時に、自分の国の政治がそのような利害や打算を超えた、誠実なものに少しでも近づけるように祈って行きたいものです。