死の支配からの解放〜詩篇30篇

詩篇30篇「死の支配からの解放」

私たちはすでに復活のいのちのうちに生かされています。そのことを何よりも歌っているのがこの詩篇と言えましょう。「永遠のいのち」とは、キリストにある復活のいのちが今から始まっていることを意味します。この標題が示すのは、これがもともと主 (ヤハウェ) の「家」である神殿奉献の歌であったということです。ダビデは神殿建設を後継者に委ねましたが、その準備には万全を期していたからです。彼は1-3節、自分の個人的な体験を繰り返しながら、それが会衆全体の信仰告白につながるように願っています。

3節で「主 (ヤハウェ) は私のたましいをよみから引き上げ」と記されますが「よみ」とはNIV訳では the realm of the dead(死の支配領域)と訳されています。そして続けて、「私を生かし 穴に下って行かないようにしてくださいました」と記されますが、この「穴」とは「墓の穴」または「滅びの穴」を意味します。要するにダビデは、自分の生涯を振り返り、主 (ヤハウェ) が自分を様々な死の危険から、守ってくださったことを感謝しているのです。

そのことが「主 (ヤハウェ) をほめ歌え 主に誠実な者たちよ」(4節) という勧めにつながります。この「誠実」とは、主の誠実(ヘセド)に応答して生きる者をで「聖徒たち」と訳されることもあります。これは現在、主にイエスにつながっているすべてのクリスチャンを指します。

そして続くことばは「主の聖さを覚え 感謝せよ」と訳すことができます。「聖なる御名」というよりも、「主の聖さ」が自分を退ける分離的な「聖さ」ではなく、汚れた私をその「聖さ」で包んでくださる主のあわれみと理解できます。これは長血を患った女の癒しに通じます。

そして5節は、「御怒りはつかの間」なのに対して、「恩寵のうちに一生がある」と訳すことができます。振り返ってみると、神の御怒りを受けて苦しんだと思われる記憶があっても、それを一生涯という期間から見直すと、すべて神の恩寵のうちにあったと思えるようになっています。それが、「夕暮れの涙」と「朝明けの喜びの叫び」につながります。

そして7節では再び、「ご恩寵のうちに」と繰り返され、その中で、「私の山」と呼ばれる「安心の基盤」を「強固なものとして」「立たせてくださいました」と感謝しています。それと対照的に、主が「御顔を隠され」ると、自分が「おじ惑うしかない」と告白します。

10,11節の「お聞きください……あわれんでください」という祈りと、「嘆きを踊りに変えてくださいました」という感謝の告白を見ると、ダビデが今も苦難の中にあるのか、平安の中にあるかが分からないように思われがちです。しかし、ヘブル語の動詞には英語のような明確な時制の区別はなく、起こっていることを内側から見るか、外側から全体として見るかという観点の違いがあるだけとも言われます。つまり、「嘆きを踊りに……粗布(あらぬの)を解き、喜びをまとわせてくださいました」という「ご恩寵」は、「私をあわれんでください」という叫びと同時並行的に進んでいるとも言えましょう。

私たちも自分の人生を振り返ると、主への叫びと、主への感謝は、同時並行的に進み、全体を振り返ると、「恩寵のうちに」私の生涯は守られていたと告白できるのではないでしょうか。なぜなら、「何でこんな目に……」と悲劇も、すべて神の愛の御手の中で益に変えられているからです。

祈り

主よ、私の生涯のいのちが、ご恩寵のうちにあることを感謝します。一時的に涙が宿るときがあっても、あなたの真実な導きを信じられるように助けてください。


以下はこの詩篇の英語訳をそのままうたったものです。以下の日本語私訳を読みながら、お聞きいただければ幸いです。

詩篇30篇交読文

賛歌。家をささげる歌。ダビデによる

あなたをあがめます 主 (ヤハウェ) よ (1)

それは 私を引き上げ 敵が喜ばないようにしてくださったから。

主  (ヤハウェ)  私の神よ 私が叫び求めると (2)

あなたは私を癒してくださいました。

主  (ヤハウェ) は私のたましいをよみから引き上げ (3)

私を生かし 穴に下って行かないようにしてくださいました。

主 (ヤハウェ) をほめ歌え 主に誠実な者たちよ (4)

主の聖さを覚え 感謝せよ。

それは 御怒りは束の間つかのまで (5)

恩寵おんちょうのうちに一生があるから。

夕暮れには涙のうちに過ごしても

朝明けには喜びの叫びがある

この私は平安のうちに言った (6)

「私は決して揺るがされない」と。

主 (ヤハウェ) は ご恩寵のうちに立たせてくださいました (7)

私の山を 強固なものとして。

あなたが 御顔を隠されると

私はおじ惑うしかありませんでした。

あなたを 主 (ヤハウェ) よ 私は呼び求めます。 (8)

私の主 (アドナイ) に あわれみを乞います。

何の益があるでしょう 私の血に (9)

私が滅びの穴に下るならば。

ちりが あなたをほめたたえ

あなたの真実を告げるでしょうか

お聞きください主 (ヤハウェ) よ あわれんでください。 (10)

主 (ヤハウェ) よ 私の助けとなってください。

あなたは私のために 嘆きを踊りに変え。 (11)

粗布あらぬのを解き 喜びをまとわせてくださいました。

それは私のすべてがあなたをほめたたえ (12)

押し黙ることがないためです。

主 (ヤハウェ)  私の神よ

とこしえに あなたに感謝します