詩篇12篇〜日本経済のデフレ脱却

 本日1月17日は阪神淡路大震災から30年の悲しい記念日です。それも本当に心が痛むことです。ただ同時にそれから間もなくの3月20日にオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きたことが、日本人の宗教心理に大きな影響を及ぼしました。
 それが起きた1995年まで、カウンセリングの看板を出していた当教会に多くの未信者の方が訪ねてくださいましたが、この事件以降、ぱったりと誰も来なくなりました。人々が「宗教は危ない」と過剰な危機意識を持つようになったためです。それは本当に驚くほどの明確な変化でした。

 同時に1995年を境にして起きた日本経済の変化があります。1993年から95年まで日本の米ドル換算の平均賃金は世界で2位でした(一位はスイス)。それからどんどん順位を下げて、今や世界21位にまで下がっています。今は確か、韓国に抜かれたと思います。

 その頃からの日本経済の30年間のデフレに関して、面白い分析をしている本に出合いました。渡辺努「物価を考える デフレの謎 インフレの謎」2024年日本経済出版です。著者は東京大学大学院教授で、日銀にも努めていたことのあるハーバード大学で博士号を取った国際的に認められている経済学者です。
 その彼が次のように序文で書いています

日本のデフレのキーワードは「自粛」です。企業は値上げを自粛し、労働組合は賃上げ要求を自粛する。この二つの自粛が延々と続けられてきました……
 日本は30年間にわたって「自粛」をやってきて、そのアラが社会のいろいろなところにあらわれていました。また自粛疲れもあったかもしれません。そうしたさまざまな要因が重なって、自粛をそろそろやめにしようという機運がじわじわと醸成されてきたというのが私の観察です。

 経済学の最先端を教えてる方が、日本人のメンタリティーがデフレの原因だと語っていることが興味深かったです。それを実際の様々なデータや事例を通して説明しています。
 もちろん、現在の世界的なインフレは、コロナ危機やロシアのウクライナ侵攻による原材料費の高騰から始まっていることは誰の目にも明らかです。

 しかし、数年前から労働組合ばかりか政府も経営者団体も賃上げの必要を訴えるようになっており、一部の大企業では大幅な賃上げが約束されたりしています。明らかに社会のムードが変化しています。
 日本のコロナ危機での自粛も世界的には極めて異例でしたが。そのような社会全体の自粛ムードが変わりつつあります。

 自粛の中では、社会全体が互いの目を意識して、新しいことをしにくくなります。オウム真理教を契機に、キリスト教に興味を持っている人さえ、教会に足を踏み入れなくなりましたが、根本的な原因は、この社会全体の自粛ムードが、聖書の真理を求めるという動きを邪魔してきたように思います。

 最近になって、少しずつ教会に求道者の方々が増えつつあるように感じておられると思います。社会全体の自粛明けが、教会に新しい方々を送る契機になっているように感じます。
 自粛ムードは、互いの足を引っ張り合うという雰囲気を作ります。そのことが詩篇12篇に次のように描かれています。

詩篇12篇「主のみことばの真実によって」

 この詩では11篇に引き続き、ダビデを嘲る者たちの言葉との戦いが記されます。1、2節では、「誠実な人……は消え去り……人は互いにうそを話し」と、ダビデが置かれた状況が描かれます。
 そして、「うそ」が「へつらいのくちびると、二心で」表現されるというのです。両方とも、心のうちの思いと、口から出る言葉が分離しています。

 「うそ」を言う者は、自分の無力さや頼りなさを認める代わりに、自分が全ての状況を支配している神であるかのように振る舞い (4節)、社会的弱者を騙して味方につけ、ダビデのように謙遜で正直な指導者を追い落とそうとします。
 そして、弱い人々は利用されたあげく見捨てられます。世の政治で同じことが繰り返されてきました。
 真の指導者は、目の前の問題の解決が、別の問題を引き起こすという矛盾と葛藤を語るはずですが、しばしば大衆は、安易な解決を約束する指導者に従い、そして裏切られます。

 それに対し、主は、「悩む人が踏みにじられ、貧しい人が嘆くから、今、わたしは立ち上がる」(5節) と約束され、私たちを導くみことばの真実を「主 (ヤハウェ) のみことばは混じりけのないことば。土の炉で七回もためされて、純化された銀」(6節) と描いてくださいました。
 主イエスは、安易な解決を退け、私たちに、「自分を捨て、日々自分の十字架を負い、そしてわたしについてきなさい」と言われました (ルカ9:23)。そしてその逆説こそが、主が私たちを「お守り」くださる道でした (7節)。

 この世界の問題の解決は、天地万物の創造主が、ご自身の御子を十字架にかけなければならないほどに、複雑に込み入っています。
 政治はとても大切ですが、どの政党もあまりにも問題を単純化して、人々を誤りに導く傾向があります。誰かを悪者に仕立てて互いを非難しあうこと自体から、戦争の種が生まれるのではないでしょうか。
 イエスに倣い、人々の誤解と中傷に耐えながら、誠実を尽くす道を歩みたいものです。


【祈り】 主よ、この世界には、誇大広告と偽りの約束が満ち満ちています。どうか、主の真実な約束を見分ける知恵と、それに従う勇気を私にお与えください。