一人の娘への思いが世界を変える 映画ディアファミリー原作〜マルコ5章25–34節

 数週間前に映画「」を見てきました。とっても感動しました。
 それは、余命10年を宣告された心臓疾患を持つ娘を助けるために、人工心臓の開発という途方もないプロジェクトを立ち上げ、それが挫折しながらも、その副産物として心臓の機能をサポートする医療器具・IABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルを開発した筒井宣政氏の実録ドラマです。
 
 そのもととなる原作小説 清武栄利著「アトムの心臓」(文春文庫)というのを友人に勧められて読みました。二週間前に紹介したいと思いつつ、多忙のため今日になりました。幸い、映画はまだ上映中です。

 筒井氏は、ビニール加工樹脂を生産する愛知県の小さな会社の二代目社長でした。アフリカの人々の縮れた髪の毛を結わえるひもを生産して、会社を立て直します。そのさなか三人の娘の次女の佳美さんの先天性心臓疾患が治療不能であると告げられます。
 そのよう中で東京女子医大の心臓治療部門の誘いを受け、人工心臓の開発に多額の資金と全精力をつぎ込みます。
 誰の目にも不可能と思える中、娘に鉄腕アトムのような心臓を作ってやりたというたった一つの切実な願いの故でした。
 途中でこれを完成するには時間と資金もまったく足りないことが分かりますが、そのような中で、心臓血管カテーテルの医療事故の話を聞き、人口心臓の研究開発で培った技術と自社のビニール加工技術を合わせて画期的な製品ができることを発見します。
 
 筒井氏の奥様の陽子さんは、私立金城学院でキリスト教を学び、聖書を愛読書とするような方でした。
 そして娘の佳美さんも 自分の肉体の命が長くは続かないことを知ってキリスト教会に通い、洗礼を受けます。
 その際、ヨハネ福音書12章14節のみことばが心に響いたようです

一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままです。しかし、死ぬなら、豊かな実を結びます。

 佳美さんは、筒井氏が、人工心臓の開発を諦め、バルーンカテーテルの開発に精力を注いでいることを聞いたとき、次のように言います

私の病気のために、お父さんとお母さんはものすごく勉強してくれた……
人の命を助けるものを作るんでしょう。すごく嬉しいよ。佳美の誇りだよ。

 彼女は、自分の肉体の命がやがて尽きることを知りながら、それをもとに多くの人々を救う製品が父母によって開発されることに本当に大きな誇りを感じていました。まさにヨハネ福音書に記されているとおりです。

 筒井氏が立ち上げた東海メディカルプロダクツの製品 には、この会社が佳美さんの思いによって成り立っていることを記しています。br> 現社長は、佳美さんの最愛の姉に思いを寄せた方が婿養子に入っています。

 感動的なのは、映画ディアファミリーというタイトルにもあるように、心臓疾患を抱えた佳美さんを支えるために一家がほんとうに感度的な愛の交わりを築いていることです。そればかりか、この本によれば佳美さんに引き寄せられるように多くの方がこの交わりに加わり、この会社を盛り立てていることです。

 映画では、この肝心の信仰の部分がすっぽり省かれています。それはとっても残念ですが、ストーリー全体から、キリストの愛が伝わってきます。

 マルコの福音書5章25~34節には 十二年の間、長血をわずらっていた一人の女性の話が描かれています。彼女は、イエスの衣に触れることで自分が癒されるという一縷の望みのもとにイエスに近づきます。
 そのときイエスは、「自分のうちから力が出て行ったことに気づき、『だれがわたしの衣に触ったのですか』と尋ねます。
 イエスは多くの群衆にかもまれながら、たった一人の娘の切実な思いに気づかれたのです。そして、彼女に向き合い、「娘よ、あなたの信仰があなたを救ったのです」と、彼女の「生きたい」という切実な思いを全面的に評価してくださいました。

 神の愛の物語は、たった一人の人への愛の連鎖でつながっています。目の前の一人の人への愛が、世界を変え続けているのです。
 しかも、その際、「生きたい」と切実に願う一人の弱い人を中心に、不思議な愛の交わりが築かれて行きます。
 
「生きたい」「生かしたい」という思いの交互作用から新しい働きが生まれました。
 ビニール樹脂加工の町工場から世界中の人々を救う医療技術が開発されました。そのすべては、生きたと願いながら、23年で地上の命を終えられた一人の娘への愛から始まっています。
 
 幸い、小生は、7月14日にこの会社が生まれた愛知県春日井市での礼拝メッセージに招かれております。