教会と教会堂

「舟の右側」(地引網出版)2015年7月号より:シリーズ「教会と教会堂」
このシリーズでは、日本各地の教会を訪れて「会堂建築」に至るプロセスと完成した会堂を取材し、その過程の中に現れてきた教会の本質に迫る。

立川福音教会の正面玄関

日曜日の風景

一日に16万人が利用する東京都JR立川北口から徒歩9分、シネマ通りと名付けられたレトロな雰囲気の残る道路をたどっていくと立川福音自由教会(高橋秀典牧師)はあった。2013年5月に完成した新会堂。会堂の外観写真を撮ろうとカメラを構えたが、道路が狭くて全体を納められない。仕方なく裏に回ってみると、会堂裏はぽっかりと更地になっていて、朝の陽ざしが会堂の白い壁面に差し込んでいた。

第一礼拝は午前10時15分から11時40分まで。2階にある礼拝堂は、明るく静謐な雰囲気。100席ほどの椅子が並べられ、50人以上の会衆が礼拝開始を待つ。小さな子供からお年寄りまで、年齢に偏りがない印象だ。

礼拝堂で最も目を引くのは、講壇の後ろのステンドグラス。「新しい天と新しい地」をモチーフにしたもので、聖霊を象徴する鳩、十字架が描かれ、悲しみに満ちた地上の世界に、天の神から輝く光と、いのちの水の川が流れ込む様子が表現されている。創世記から黙示録までを一つのステンドグラスに表現し、見る者の信仰を喚起する。

オランダ製ポジティフオルガンの美しい調べの中、礼拝が始まる。詩篇交読、会衆賛美、主の祈り……と、式順に則った礼拝。賛美は全曲、讃美歌が用いられていた。音が天井に抜けるでもなく、響きすぎるでもなく、オルガンと賛美が礼拝堂全体に心地よく響く。

特徴的だったのは、大人の礼拝の中に子供の礼拝が組み入れられていること。司会者が「CSの時間です」と告げ、大人も子供も一緒に子供賛美を歌い、続いてCS教師が前に出て、子供たちは講壇下の床に腰を下ろす。教師は、大人たちも見守る中、紙芝居を用いて聖書のメッセージを語り始めた。

子供向けのメッセージであったが、大人が聴いても惹きつけられる、わかりやすくて深い内容。十分な準備がなされているのが伺える。途中、大人からも笑いが起きるなど、全員がその時間を楽しんでいた。

CSの時間が終わると、子供たちは親の隣に戻る。みことばの黙想、教会の祈り、賛美、聖書朗読と続く。この日の黙想箇所はイザヤ書11章1~10節。「エッサイの根株から新芽が生え、その根から若枝が出て実を結ぶ。……」高橋牧師が朗読する聖書のことばに静かに耳を傾ける。「しばらく、主がどのような世界に私たちを導いておられるのかを思い描きましょう。」その勧めのうちに、全員で黙想する。

裏から見た教会堂

この日の説教は、ローマ人への手紙8章12-30節から。キリストと共に苦しむことによって、共に栄光を受けることになるとして、被造物のうめき(22節)、私たちのうめき(23節)、御霊のうめき(26節)の、うめきの三重奏の中に生きる大切さを説いた。

「この世界に必要なのは、もっと根本的な解決です。人間的な解決ではなく、神の解決です。人の励ましによって生まれる元気ではなく、神が私たちの心を引き上げてくださることによって生まれる活力です。そして、そのために何よりも必要なのは、問題解決を考える前に、『ともにうめく』ということです。そこに『御霊のうめき』が生まれます。この世の常識を超えた希望が生まれます。」

高橋牧師は、プロジェクターは一切使わず、ただ言葉によってみことばを伝えていく。しかしそこで語られる聖書の真理が、心の深い部分にぐいぐいと入ってくる。こうしたらこうなるという「ハウツー」ではない説教を聴き終り、霊が養われた感覚が残った。

礼拝が終わると、皆が楽しそうに話し始める。一気に笑顔が弾ける。1階のキッチンとフェローシップルームでは昼食が準備されていて、この日は美味しい豚丼をいただいた。

午後1時半から始まったのは、「教会のヴィジョンを語り合う会」。この日は牧師夫妻を含めて15人ほどが参加。司会者が、まずは現状認識をしようと、それぞれに「あなたは何が良くてこの教会に来ているのか?」と尋ねた。ずいぶん大胆な問いである。参加者からは、次のような意見が出た。

「教会のヴィジョンを語り合う会」では、牧師の説教も話題に

「高橋先生の説教は、はっきり言って分かりにくい部分もある。だけど、薄っぺらい説教だったら、教会に来つづけられないと思う。」(男性)

「説教の分量が多くて、よく分からないという人もいる。少し絞っていただければと思う。」(女性)

「メッセージに、霊的なことと、この世に生きることのバランスが取れている。だから私は来ているのかなと思う。」(女性)

「娘に言われたんだけど、お父さんとお母さんは、礼拝のメッセージについて楽しそうに語り合っていると。前に行っていた教会では、そんなことはなかったと。」(男性)

「教会に来ている年数とかに関係なく、あとから来た者でも同じ気持ちでいられるというのは、めずらしい教会だと思う。」(女性)

高橋牧師は、これらの意見を聞きながら、苦笑いしたり、喜んだり。しかし総じて、牧師が毎週語る説教が、教会員にとってこの教会に集う大きな動機になっていることがうかがえた。

午後4時からは第二礼拝。こちらは30代の信徒たちが導く自由な雰囲気の礼拝。賛美もプレイズ&ワーシップソングが用いられる。20~40代ぐらいの信徒が20人ほど参加し、説教は高橋牧師が第一と同じものを語る。若い世代が賜物を発揮する場所にもなっている。

伝道牧会の転機

立川福音自由教会は1989年、当時急成長を遂げていた東京武蔵野福音自由教会(吉祥寺市)の第二会堂として開拓が始まった。立川駅の近くに月36万円のテナントを借り(のちに30万円)、今回の献堂まで24年間、50名が入るといっぱいになる会堂で伝道牧会が続けられた。

2階にある礼拝堂。1階はフェローシップルーム、キッチン、牧師室がある

当初、高橋牧師が取り組んだのが「カウンセリング」。一人ひとりの悩みに寄り添い、イエスを信じて救われる人も次々と与えられたが、次第に困難を覚えるようになっていったという。

「結局は、自分の人間的な力に頼った教会運営でした。カウンセリング路線というのは牧師依存体質を生み、新しい誰かに関わるようになると、前の人が不機嫌になったりする。行き詰ったんですね。」と高橋牧師。

転機となったのは、1997年と1999年の2回にわたって参加したリージェント・カレッジ(カナダ)でのサマースクールと牧会セミナー。初回はジェームス・フーストン氏、2回目はN・T・ライト氏とゴードン・フィー氏が講師だった。特に2回目の二人の講師によって聖書の読み方、神学的な土台が変わった。

第一礼拝の中で行われる「CSの時間」

「単にイエス様を信じて天国に行ける、という理解から、今はうめきの中にある被造物全体が変容して新天新地に至る、という理解に変わりました。だから、今の社会とか被造物のこと、クリスチャンの地上での使命なんかが重要になってきました。神学的な枠組みとしては改革派の流れと基本的に同じなんですが、現実のユダヤ人の使命や救いを重視する立場です。ゴードン・フィーもライトと共通しているんですが、聖霊論とうめき。新天新地を待望するうめき、御霊ご自身のうめきですね。」

さらに、ハンス・ビュルキ氏の牧師セミナーにも参加し、キリスト者の霊性について学んだ。

これらの学びを通して、カウンセリング路線から「聖書をそのまま解き明かす」という路線に変更。2004年からは、旧約聖書全体を10年かけて講解説教した。すると、教会全体が、依存的な体質から、みことばを土台とした自律的・主体的な体質へと変化していった。

教会の活動の中では「礼拝」が何より重視され、説教の準備は基本的に丸3日を費やす。朝9時から牧師室に閉じこもり、夜9時までかけるときもある。1日8時間としても、24時間をかける。

説教の次に重視しているのは、求道者や信仰の初心者のための「入門クラス」。一対一で相手の話を聞き、神の導きや救いの体験の言語化を助ける。

「みんな、どこかで神秘体験を持っているのですが、福音派は、そういう神秘体験をさせない、語らせないという傾向がある。それを、奇跡信仰にならないように注意しながらですが、こういうふうに表現したらいいんですよと、言語化を助けてあげる。すると、自分の信仰に自信を持って、表情も行動も変わっていくのです。」

伝道に関しては、「神・罪・救い」という伝道方法に異を唱える。「教会に来た人に、『罪で悩んでいるんですか?』と聞いても、たいていそうじゃなくて、社会からの疎外感だったり、劣等感を持っていたり、仕事のことで苦しんでいたりする。そんな人に罪の自覚を持たせるなんて、心の暴力にもなりかねません。そうした悩みからみことばに出会い、神様にすがるというかたちを取ればいいわけで、罪の自覚というのはもっと後でいい。罪を自覚するというのは、簡単にはできない、実際にはすごいことだと思いますよ。」

会堂建設へ

「聖書をそのまま解き明かす」という路線への変更と軌を一にして、2004年より、会堂建設のビジョンが動き始めた。それまでテナントの教会だったが、会堂基金が3000万円に達した時点で土地購入を検討することを9月の中間総会で確認した。以後、会堂建設に関する夢を語り合い、2009年の中間総会では「会堂建設準備委員会」の設置が可決。まずは祈りからだと、「立川チャペル祈りの環」のメンバーを募集した。24名の信徒が登録し、時間を決めて新会堂のために祈り続けた。

高橋牧師は、次のようなコメントを教会員に向けて発表した。「教会建設の原動力は、教会に集う愛兄姉の一致した祈りです。新りの時間をそれぞれが聖別することなしに、無理な計画を実行に移そうとするようなことはあってはなりません。それがこの世の組織と教会の決定的な違いです。お金の計算をするよりも、祈りのために時間を聖別しましょう!」

教会のメンバーへのアンケートも、2010年と2011年の2回実施。その結果、新会堂に求められる第一のものとして「主への礼拝の充実」が挙げられ、会堂建設の最重要事項も「礼拝スペース」となった。当時のテナントでは、礼拝堂に人が溢れ、通路、分級室までいっぱいになることもあった。

また、「20年後の教会と自分の生活を思い巡らす」というアンケートでは、小さな子供たちが成人して、その時も共に礼拝を守りたいという願いが明確にされた。こうしたアンケートにより、教会員一人ひとりの中に、会堂建設への思いとビジョンが膨らんでいった。

2011年の中間総会では2500万円の会堂基金が集まっていることが確認され、あと1000万円の献金が集まれば具体的な土地交渉を開始することを決議。すると、ひと月しないうちに1000万円の予約献金が与えられた。遠くから来ている人やお年寄りのことを考え、今と同じ立川駅から徒歩圏内の物件を探した。

皆で集まって会堂建設について話し合う(旧会堂)

会堂建設委員会は、5つの部門によって構成。「財務委員会」「会堂設計委員会」「広報委員会」「教会20年ビジョン委員会」、それら各委員会の代表者からなる「会堂建設代表者委員会」。代表者委員会議長を務めた水野剛氏はこの頃、「今、心に留めなさい。主は聖所となる宮を建てさせるため、あなたを選ばれた。勇気を出して実行しなさい。」(Ⅰ歴代誌28・10)のみことばが、次第にはっきりと与えられてきたという。

土地の購入は、立川駅南口の徒歩圏内に41坪の物件が見つかり、交渉も順調に進んでいるかに見えたが、受難週の時期に、所有者が更地渡しの条件を飲めないとして交渉決裂。それはまさに、うめきの時だった。しかし翌週の復活祭直後に、北口の徒歩圏内に40坪の土地が売りに出された。教会員もそれぞれ現地を見に行き、すぐに臨時総会を開き、全員一致で「ここが新会堂建設には一番良い」との思いが与えられた。実は、南口の物件の時には、周辺地域の風紀の悪さなど、様々な反対意見もあった。

「新しい天と新しい地」をイメージしたステンドグラス

2012年4月、約4200万円(坪単価107万円)で土地を購入。続く会堂建設のため8000万円の教会債(教会員などによる無利子の貸付)を募集した。会堂の基本設計を株式会社デザインネットワークスに依頼し、建設業者3社に見積もりを取り、有限会社サクタスタイルに施工を依頼した。

新会堂のメインコンセプトは「新しい天と新しい地を待ち望む礼拝堂」、設計コンセプトは「やさしい音と光の空間」。座席数は100席を目指した。このコンセプトを具現化するため、会堂設計委員会が設計会社と交渉にあたった。同委員の村田望氏は語る。「やはり、教会堂を建てた後、私たちの教会の真価が問われると思います。設計委員会でも、そのことを考えながら進んできました。」村田氏は、プレゼンテーションの仕方も学び、教会のメンバーへの説明にも力を尽くした。

「新しい天と新しい地」をモチーフにしたステンドグラスは手作りの品。教会員の夫でニューヨークのコーニンググラス博物館の世界100選にも選ばれた尾崎稔成氏が、発色のいいイタリア製のガラスを用いて制作した。そこには「ゆたかな礼拝を持ちたい」との思いが反映されている。

光と音は、天窓を付けるなどして日光をふんだんに取り込み、音響はアコースティックな音の響きを適度に生み出すような床・壁材を用いた。可能な限り天然素材を用いている。背もたれの低い木製の椅子も、会堂全体の雰囲気に調和して
いる。

設計段階でもめたのは、玄関で靴を脱ぐかどうか。賛否両論があり、教会全体の泊りがけのリトリートでも議論になった。意見としては、「土足の方が出入りしやすい。」「防災上、土足の方がいい。」「靴を脱いだ方がリラックスできる。」など。高橋牧師は「『あなたの足のくつを脱げ」とあるでしょう」と、聖書から主張した。しかし、話し合いでは決着がつかず、設計委員会に一任してもらうことになった。「全部の意見を反映するのは無理ですし、議論して決まらないこともある。そうなると、最後は一任してもらうしかありません。設計委員会としては、誠意を持って説明し、意見はきちんと聞いていくということですね。」と村田氏。委員会として、靴を脱ぐことに決定した。

靴を脱いで上がる

広報委員会は、毎月「会堂委員会ニュース」を発行し、進捗状況と祈りの課題を伝えた。財務委員会は、教会内外に教会債8000万円の募集への協力を呼びかけた。その結果、教会の外(親教会の東京武蔵野教会員や他県や海外に転勤した人、または過去の受洗者や教会員の親族など)から予想外の献金や教会債が集まり(募集額の半額程度)、予定より少なく、教会債6810万円ですべての必要が満たされるに至った。特徴的だったのは、1千万円以上の大口の献金者・教会債を引き受ける人は一人もいなかったこと。水野氏は、まさに「五つのパンと二匹の魚」のような、「焼け石に水」のような献金と教会債が集まり、主の奇跡があらわされたと語る。

鉄骨造2階建て延べ床面積204㎡の新会堂は、2013年5月15日に完成し、6月15日に献堂式が執り行われた。教会員はこの日のために「メサイヤ」のハレルヤコーラスを半年ほどかけて練習し、新会堂をヤハウェの神への「ハレルヤ!」の叫びで満たした。
(本誌・谷口和一郎)