「きよしこの夜」の原詩とその由来

「きよしこの夜」は世界中で最も有名なクリスマスソングです。以前から、この曲は、1818年のクリスマス・イヴに、ザルツブルグ近郊の小さな村のカトリック教会で、そこの司祭補助のヨゼフ・モールがギターで伴奏をしつつテナーで歌い、作曲者のフランツ・グルーバーがバスで歌ったのが始まりであると知られていました。それは、その教会にあった小さなポジティブオルガンが故障して音が出なかったからのようです。

ところが、最近の1995年になって作詞者モールの直筆の歌詞が見つかり、この歌詞は2年前の1816年に既に作られていたことが分かりました。ただこの詩に合わせた作曲が1818年のクリスマス・イヴ直前であったことは確かなようです。

これを通して、作詞者のヨゼフ・モールの生涯に改めて注目が集まりました。彼は、1792年の12月に、貧しさのために兵隊にならざるを得なかった男と、その一時滞在の場で出会った女性との間から生まれました。しかし、父はすぐに別の場所に移動になり、ヨゼフは父親を知らない私生児として育つことになります。結婚をしないまま彼を産んだ母は、人々の冷たい視線に耐えながら、極貧の中で彼を育てます。

ただ、ヨゼフの美しい声に注目した人が育ての親になってくれ、彼は神学校まで行き、教会で仕えられるようになりました。彼はただ、貧しい村の人々の間でギターを奏でて歌うのが大好きで、上司の司祭からは、「従順の霊に欠ける」と言われ、評価が低かったようです。そのためいろいろな教会を転々とさせられ、最後の十年は貧しい人々の学校を作って教えるとともに、自分の手にしたお金はすぐに貧しい人々に施しながら、極貧の中で病気になり、56歳で息を引きとります。しかも、彼は自分の書いた曲がどれだけ世界の人々を慰め、力を与えたかは知りもしませんでした。彼はもともと六節の歌詞を書いています。以下はドイツ語の原文を基にした私訳です

  1. 静かな夜、聖なる夜。すべてが寝静まっている。
    信頼し合う、聖なるふたりだけが目覚めている。
    愛らしい巻き毛の赤子が、天的な平安のうちに眠っている。
    天的な平安のうちに眠っている。
  2. 静かな夜、聖なる夜。神の御子が何と、微笑んでいる。
    その気高い御口からの愛をもって。
    救いの時が私たちについに到来した。イエス、その誕生の時、
    イエス、その誕生の時。
  3. 静かな夜、聖なる夜。この世に御救いがもたらされた。
    まばゆく輝く天の高みから。
    満ち溢れる恵みが私たちに現された。人の姿のイエスにおいて、
    人の姿のイエスにおいて。
  4. 静かな夜、聖なる夜。そこに今日、すべての御力が、
    御父の愛から、溢れるように注がれている。
    慈愛に満ちた兄として抱擁してくださる、イエスが世界の民を、
    イエスが世界の民を。
  5. 静かな夜、聖なる夜。はるか昔から私たちを思い、
    主はご自身の御怒りを鎮めようとされていた。
    御父は、はかり知れないご計画の中で、全世界への祝福を約束された、
    全世界への祝福を約束された。
  6. 静かな夜、聖なる夜。羊飼いたちは最初に御告げを受けた。
    御使いたちの「ハレルヤ!」によって。
    その声は、遠くに近くに響き渡る。「救い主イエスが今ここに」、
    「救い主イエスが今ここに」と。

私生児として生まれたヨゼフ・モールであるからこそ、居場所がない者の仲間となるために人となられた神の御子イエスの愛が、誰よりも身に沁みたのではないでしょうか。イエスは、父ヨセフの正式な子として産まれましたが、血のつながりはありませんでした。人間的には、私生児と似た境遇とも言えましょう。

この歌詞には、「平和を作りましょう!」という呼びかけは記されていませんが、全能の神であるはずの神の御子が、ひ弱な赤ちゃんとして現れ、その気高い、御口の微笑みによって、私たちの心の中にある怒りや憎しみの思いを消してくださることが歌われています。また、人となられた神の御子を通して、神の愛が目に見えるように私たちの前に現されたことが歌われています。そしてまた、イエスが私たちのすべての痛みや悲しみを知る「兄」として私たちを抱擁してくださることが、告げられ、歌われることで、心が柔らかくされます。

第一次世界大戦が始まった1914年のクリスマス・イブ、北フランスの地で、ドイツ軍とフランス、スコットランド連合軍が対峙していました。ドイツ軍の陣地で真夜中に光が灯りました。何かと思うとドイツ語で、Stille Nacht! (静かな夜)、Heilige Nacht!(聖なる夜)と聞こえて来ました。それに応じて、スコットランド軍もバグパイプの音色と共に、Silent Night! Holy Night! と応じて歌い出しました。その後、双方の兵士たちは銃を置いて中間地点に集まり、クリスマスの祝福を述べあい、食べ物を分ち合い、フランス軍はシャンパンを分ち合ったとのことです。その話を基に、「戦場のアリア」という映画が2005年に上映され、世界中の人々に感動をもたらしました。

今年のクリスマス・イブはこの「きよしこの夜」の意味を味わいながら、キャンドルサービスをしてみましょう。